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第一話、完結―。

第一話「アイ・ノウ・ユアー・ネイム」 ―B/part―

(※はじめて見に来て下さった方、前半部を読まれていない方はA-Part下↓、またはこちらから

3-D.

 それは一瞬のことで、記憶に焼きつく暇さえ無かったのだろう。
 はっと我に返る。 私は操縦桿のスイッチを押したまま、前方のモニターを見つめていた。 鉄の塊が圧壊する様、圧倒される煙の量、そして橙色の粒子が輝きを撒き散らしている。 GN粒子はとても奇麗で、打ち上げ花火を間近で眺めているみたいだ。

 研究所の倉庫から出撃したあと、北へ向かって飛び去るアヘッドを発見、背部にマウントされていたGNライフルを抜いてビームの発射スイッチを押した――そこまでの記憶が綺麗サッパリ抜け落ちていた。 …しかし、

「撃墜、した……?」

 まさかライフル一撃で落ちるなんて。 自分でもびっくりだ、戦闘シュミレ―タ―でもここまで上手くはいかなかった。
 有人機動兵器であるモビルスーツを撃墜する。 それが意味するものは明確にそこにあった。 均等である筈の命の重みを一つ、自らの手で消し去ったという事実。 私が今手にしている力の重みによって、さっきまで燃えていた「誰か」の生の炎を踏みつけたのだ。 

 だけど、それを実感することになるのは、まだ先のことだった――。

 ピーピーピーピーピー…

 警告音が鳴っているのも今気づき、まだ敵が三機残っていることを知らせている。内二機はGNドライヴを搭載した機体。 このまま見逃せば取り返しの付かないことになりかねない。
 レーダーを確認すると自機を示す青い点一つに、赤い点が三つ、そして連邦軍の正規MSを示す緑の点―GN-Xのものがあった。 

 「こちら…ええっと、ノーリッジ研究所から来た者です、GN-Xのパイロット、応答してください!」
 通信回線を開くが、ノイズが酷過ぎて何も聞こえない。
 「…もしもし、聞こえていますか? 応答ぐらい……なっ!」

 奪取した機体をこれ以上破壊されては敵わないとの判断か、三個の赤い点が反対方向に撤退していくのが見てとれる。 

 「逃げるな! どうしよう一体そうすれば…」

 このまま突っ込んで行っても、三機を同時に相手取る自身などはない。

 頼りのGN-Xにも動きがない。 ふと、違う種類の警報が鳴る。

 「…!? ああもう、今度は何!」

 赤く点滅する画面には[WARNING]の文字が煩く踊っていた。

 視認モニターに使用したライフルが映し出される。 銃口はぐにゃりとヒシャゲ、原形を留めていなかった。 一発の射撃だけでこんなになるなんて。 いや、そもそも高度のE-カーボン製の兵器がこんなに変形するなんてありえない。

 「一体どうなって…」

 とにかくこのライフルは使えない。 武装はもうビームサーベルしか残っていないが仕方ない。 あまりやりたくないが追いかけて接近戦でやり合うしかないだろう。 そう思った矢先、何やら不穏な物音が響いてきた。 
 
 背面のGNドライヴからプシュゥゥゥ…という音が漏れ、次には[EMPTY]と目の前に点滅表示される。

 「うそ、粒子切れ!?」
 
 
 GNコンデンサー内に残っていた僅かな粒子を、先ほどのライフルで使い切ってしまったらしい。 やばい、はやく―

 [おい、大丈夫か? …ピンクいモビルスーツのパイロット!]
 
 
 通信が回復し、その主である連邦軍のGN-Xがこちらに飛んで来た。 知らない男の声には不安の色が滲んでいる。  今まで何をしていたのだろうか、

 「しかしそのツインアイのツラ構え、『ガンダム』だよな!? 一体どこの所属で…」
 
 「そんなことより今まで何やってたんですか、アナタたちはっ!! 」 

 「! 女!?」

 失礼極まりない不抜けた発言が耳に飛び込んできた。

 こうしている間にもイナクトとアヘッドたちは遠ざかっていくのに。

「早くしないとGNドライヴが! すぐに追いかけて……きゃっ!?」

 体が重くなり、圧迫感が押し寄せてきた。GN粒子による管制制御を失ったラプンツェルが、頭部から急速に落下し始めたからだ。地肌に凄まじいGの圧力を感じる。さらにやばい。

「う…うわぁぁぁぁぁぁ―!!」

 落ちる、堕ちる、墜ちていく。 下はコルチェスターの突き刺さるような山々、さっきまでわたしがいた場所。
自分がどこを向いているのかさえ分からず、心臓が口から飛び出すのではと思うほど気持ち悪い。 しかし不運にも頭は冷めていて、ただ数秒後の明らかな結末を―最悪の結末を予期していた。

 地上落下まであと百メートルあるかないか。 視界が掠れていく中、[くそ!] とか [間に合え!!] といった聞き慣れない声が耳に入ってきていた。


 ≪―…ちゃん! …ちゃん!―≫



 薄れゆく意識で聞こえてきたのは、走馬灯じみた幼いころの記憶。



 ≪―バイバイ、…ちゃん。≫


 
 わたしを呼ぶ、誰かの声。 その声が、スピーカーから聞こえる男の声に変わったと思うと、そのまま意識を失った。





 4-D.
 目醒めてまず初めに目に映ったものは、俺を覗き込むメガネだった。 いや、眼鏡と言えるのか。 それで視力は確保できるのかと思うほど小さく四角い銀縁の伊達眼鏡。 無表情一徹。 青年と言えるくらい若い、中性的な容姿の男は、不快に感じるほど超近距離で顔を突き合わせていた。仰向けに寝る俺に馬乗りになる形だ。

「おや、お目覚めかい?」

 「……うわぁぁぁぁぁぁ!?」

 俺はのけ反ってベッドの壁へ後退した。 まず始めに疑ったのは、この白衣メガネがゲイであるか否かだ。 軍には多いんだよな、こういう輩が。 …ん、軍?

 「ここは、どこだ?」

 俺の困惑を感じ取ったのだろう。 ベッドから降りた男は説明を始めた。

 「『ノーリッジ特殊技術研究所』 君が任務で着任する筈だった場所さ。 目的地には着けたわけだ、良かったね。 どこもケガはしていない、命あっての物種だ」

 ちなみにココはそのA棟にある医療室だよ、と男にしてはやけに高い声で続ける。

 「待て、なんで俺はベッドに寝ていた。 確かピンクのモビルスーツが粒子切れを起こして、落下していくのを止めようと…」

 「ああ、そうか。 まずはここに運ばれるまでのアラマシを話さなくてはね」

 そう言うと、男は淡々と俺が病棟に来るまでの経緯を話した。 

 あの時―、あそこにいたモビルスーツは『ラプンツェル』という、この男の研究所が開発したモノだということ。 俺が粒子切れを起こしたラプンツェルをすくい上げようとし、誤ってGN-Xもろとも地上に不時着させてしまったこと。 
 「そして我々が駆け付けた頃には、君も意識を失っていた。 いやぁ、ラプンツェルが破損しなかったのは本当に良かった、大いに感謝する。 だがGN-Xとラプンツェル、両方を研究所まで運ぶのには骨が折れたよ」

 「そうか…。 手間を取らせてすまなかったな。」

 そういえばコイツは誰だろう? 白衣を着ているからドクターなのだろうか。 俺の視線を読み取ったのか、男はああそうか。 まだ名乗っていなかったね。 と言い自己紹介を始めた。

 「私はクロム=ノート。 ノーリッジ特殊技術研究所の所長をやっている。 君は…失礼だが、GN-Xの登録データを見させてもらった。」

 
 初めまして、デュマール=アハト中尉。 そう男は言い、俺は手を差し伸べた。
 
 「よろしく、所長さん」
 
 「?」

 俺が差し出した手を不思議そうに見つめるクロム所長。 少なくともこの男には握手の習慣が無いらしい。 不自然な間のあと、ああ、そうか。 握手ね。 と手を伸ばし互いに握る。「ああそうか」が多い男だ。

 「ああ、そうそう。 隣のベッドに寝ているのがラプンツェルのパイロットだ。」

 男はそう言い、俺から見て右側を見た。

 この男と話していて気付かなかったが、この病室にはもう一人いたようだ。パイロットか…インカムの声からして女だったよな、と俺も右を向く。

 見ると、一メートル間隔向こうにもベッドが一つ、美しい端整な顔立ちの少女が一人、寝ていた。 藍みがかった白の、見事な長髪の少女だった。 

「おい、リーザ。 君もそろそろ起きたらどうだい?」

 男はもう片方のベッドに歩み寄ると、寝ている彼女の頬をぎゅむとつねった。 雪見大福のような肌に一点、桜色の斑点ができ上がる。 

 「んむぅ…。 あ、所長……おはようございます」

 間の抜けた発言をして覚醒した彼女は、あくびを押し殺しつつ髪を掻き上げた。 それを見ている俺に気付くと、少し動揺したようだ。 寝ぼけ眼のまま俺をぼうと見つめている。 声しか聞こえなかったが、「何やってたんですか!」と軍人相手に言うほど度胸がある女には見えない。

 「? 所長、この方は…部外者ですよね」

 「ああ。 先の戦闘でのGN-Xパイロット、デュマール=アハト中尉殿だ。 君とラプンツェルを救ってくれた。 感謝するといい」

 「あ、連邦の軍人さんですか。 …助けてくださって、ありがとうございました。」

 エリザベータ=ソーンツェフです、と名乗りペコリと一礼。 しかし顔を上げると一変、辛辣な目つきで睨んできた。 

 「だけど、GNドライヴを奪われたのは事実です。 軍人さんならソッチを優先事項にするべきでは?」

 前言撤回、かなり芯が強いと見える。

 「ソイツはごもっとも。 軍人の仕事は身内の機密保持ってのもある。 だがな、軍人の本分は民間人の命を護ることだ。」

 義務と使命、そこの所を混同しないでほしい、と俺も睨み返してやる。 批判を食らうのは結構だがされっ放しでは性に合わない。
 
 「そうですか、あなたは自分の使命を全うしたというわけですね。 だけど、どうなさるんですか? 連邦が独占しているはずのGNドライヴ搭載型の盗難。 そんなことが発覚すれば大問題ですよ、中尉」

 それくらいわたしでも分かります、と白い頬を膨らませる。 そう、これには言い逃れできない。 大失態だ。 …正直、軍法会議どころか本当に首が飛びそうなのだ。

 「それについては私が解説するとしよう」

 さっき少女に「所長」と呼ばれた男が会話に加わる。

 「本来、連邦のモビルスーツには機密保持・部外者による不正使用を防ぐために声紋認証システムが採用されている。 設定されたパイロット以外は使用できないようにね。 しかしその機能はあくまで正規に運用されている機体での話だ。 アヘッドシリーズは全バリエーション機を含め、既に連邦の公式コードが剥奪されている。」

 型式番号GNX-704T、アヘッド。 GN-Xシリーズ、引いては「ガンダム」を凌駕するMSの開発を念頭に置かれた最新鋭機であった。 旧人革連のMSティエレンの流れを汲み、その性能は五年前の「ガンダム」すら上回るとされた。 連邦直属の機関である独立治安維持部隊アロウズにのみ配備され、次世代の連邦量産機として様々なテストバリエーション機が産み出された。 

 新型のためアロウズ内でも中尉以上の階級を持つパイロットにしか与えられていない。 俺も搭乗し、小隊の親機として東南アジア地区へ派遣されていた。 だがそこで待っていたのは……

 「あ、だから敵・味方識別コードも敵機・UNKNOWNを示すレッドだったんですね」

 「そう。 だからどこの馬の骨とも分からない“敵さん”でも使えたってわけさ。」

  だがね、と続ける。
 「連邦製のGNドライヴはあの「ガンダム」とほぼ同等の性能を持つ。さらにこちらは量産が可能だという点で勝る。 しかし我々の物はあくまでコピーに過ぎん、搭載された燃料をGN粒子に変換するだけだ。 だから、使い続ければいつか燃料切れになる。 それに一度電源を切れば、もう一度“始動器”を動かさなければならない」

 そうなのだ。 GNドライヴは始動させるごとに“火入れ”を行わねばならず、それには専用の燃料補給装置が必要となってくる。 ああ、そうか。

 「だからドライヴ対応の“火入れ”を持たないやつらは、次に動かそうと思っても使えない、と?」

 「そういうことさ」

 「やつらも、始動器を積んだ輸送艇を破壊したのは誤算だったろうね」

 そのとき、爆散した輸送艇の光景が再び浮かび上がった。 目覚めてから、無意識で必死に抑えつけていた言葉が口を突く。

 「フィス……」

 「ん?」

 そう、俺は仲間を殺した。 あのときイナクトを追うのに執着するばかりに、部下全員を、かけがえのない同僚たちを失った。

 「俺の判断ミスだ。 みんな死んだってのに、護衛役の俺だけ生き残っちまうなんてな」

 滑稽だ、そう冗談めかして言ってみる。 項垂れても涙さえ出て来やがらない。

 「そんなことっ…!」

 離れたベッドから、エリザベータが体ごと乗り出してくる。 なにか言おうとするのが分かったが、言葉を塞ぐ。 俯くのが気配で分かる。

 「……そんなこと、言わないでくださいよ」

 暫しの沈黙の後、彼女が絞り出したのはか弱い責めだった。

 「だがね、中尉」

 所長を見上げると、何やら意地の悪い目微笑していた。

 「君のお友達、生きているかもしれない。 いや、その可能性が高いよ。」

 「なっ…」

 目の前の男は口を釣り上げている。 可笑しくてというよりも。 それは悪気の無い、子供が浮かべる純真無垢な笑みのようだった。




―C/part―

1-M

 どこまでも続く広大な針葉樹林の森は深い。 木々の間には言い知れぬ闇が縫い、その深淵は身を隠すのにうってつけだった。 都会のビル群さえ埋まってしまいそうに高い自然のトンネルは、モビルスーツなど容易く覆い隠せてしまう。

 少し開けた場所には、大勢の者たちがひしめき合っていた。 多少日の光が入るとはいえ、顔の輪郭を浮き上がらせる程度でまだ暗い。

 「―はい、そうですか。 ノーヘッドが4機……十分です。 御苦労さまでした、ではいつものルートで合流を―」
 暗がりの一角で、スーツ姿の女性が携帯電話で話している。 周りに口を開く者はなく、アルトの声が一層はっきりと聞き取れた。

 「ええ、こちらは問題ありません。 一人のかけがえの無い同志を失いましたが……アヘッド二機を収穫済みです。

 仲間数名とも落ち合えましたし、準備は万全です」

 ふと、その女性が何かに気を取られた。 誰かが後ろからスカートの裾を引っ張っているようだ。

 「…キャッチが入りましたのでこれで。 では」

 電源を切ると、今までの事務的な声より少し和らいだ口調で話し始める。

 「だめでしょう、マーシュ。 人の電話中に注意を逸らしたりしてはいけません」

 それは弟をたしなめる姉のようだった。


 「だってクロエ、アステラスが君のことを呼んでいるんだよ。 彼の言うことには従わなくちゃ」
 
 声はこの場には不釣り合いな、変声期の少年のものだった。

 「ああ、そうね。 分かったわ、声明の準備もあるから、後で顔を出すと伝えて頂戴」

 「了解したよ、クロエ」

 数分後、少年の姿をした影が一人、暗い森を歩いていた。
 
 日は落ちかかり、夕焼けのブラインドが森中に掛り始めていた。
 
不意に、少年は茜色に染まる空を見上げた。

 木々の間の虚空を見つめ、口を開く。

 「ふふ、まさかもう革新の片鱗を見せるとはね。 シンシア、懐かしい。 君を真の名で呼べる日がやっと来たんだ」

その口元は、無垢な子供そのものだった。

 (第一話、完)




一話に役半年とかww
ここまで読んでくださった方あなた、お付き合い頂きありがとうございます(泣き)

来週はサービスシーン満載のシャワーシーンを入れる予定です(マテ)

あと文字だけでさびしいので、キャラ・モビルスーツの絵をくださると嬉しいです。

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